●私はこう考える●
リハビリ算定日数制限の受け皿としての介護保険
政策部会理事 市田 哲郎
厚労省の言い訳? リハビリ改定見直し通達
06年12月25日に厚生労働省老健局から「医療保険及び介護保険におけるリハビリテーションの見直し及び連携の強化について」という通達が発せられた。正月休み目前の半ば消化試合のようなこの時期に何の通達かと思って見てみると、何のことはない。06年4月からの診療報酬・介護報酬改定でのリハビリ見直しがあまりにも評判が悪かったことに対しての厚労省の言い訳であった。
しかし、言い訳は言い訳に過ぎず、厚労省は現場の実情を把握しているとはとても言いがたい。今回はここに国民の健康を守るという使命に背を向け、財務省の手先となって社会保障費を削減するという一点に特化するがあまり、現状を見ずに制度の改悪を美辞麗句で飾り立てる最近の厚労省のやり口を批判したい。
今回のリハビリ関連の改定で、その特徴となるのが「発症後早期のリハビリを重点評価するとともに、疾患別に算定日数の上限を設けた」ところにある。それに加えて、介護保険で維持期のリハビリを行う際にも退院・退所して一定期間内の患者に対しては報酬が加算されるようになっている。また、実際にリハビリを行うスタッフではないケアマネジャーにも、退院・退所時のケアプラン作成に際しては加算を行うのでしっかりと医療と介護のリハビリの引継ぎを行うようにとのお達しである。このように、厚労省はよりよいリハビリ環境推進のためこんなに手を打っています、と言わんばかりなのだが、では、これから一つずつダメ出しをさせてもらおう。
急性期リハビリ重点の陰に 訪問リハビリの崩壊が
まず、「発症早期のリハビリを重点評価する」という点だが、なるほど、これだけを見ればよいことのように見える。しかし入院中、早期のリハビリの報酬がアップしたため、リハビリスタッフの介護から医療へ職場転換が起きており、在宅でのリハビリを行う訪問リハビリ要員がまったく不足することになった。
これに加えて、06年4月から、訪問看護ステーションで行われていたリハビリを訪問看護が主体でない場合は認めないという通達も出ている。いままで、医療機関から派遣される訪問リハビリと、訪問看護ステーションのスタッフとしてリハビリスタッフが訪問してリハビリを行ういわゆる訪問看護7では、後者の方が報酬は高かった。介護保険への誘導のつもりだったのだろうが、今回ハシゴを外した形である。
このため、訪問看護ステーションに配属されていたリハビリスタッフは同法人内の病院に呼び戻され、基本的には入院中の急性期患者のリハビリに専念し、余った時間を在宅での退院・退所から間もない患者さんにのみ訪問リハビリを行うようになっている。ここでも退院・退所後3カ月を過ぎると報酬はかなり低く抑えられるためペイしなくなり、結果的にはリハビリの打ち切りとなるケースが多い。
患者を診ずに疾患を見る 医師の裁量なき日数制限
「疾患別に算定日数に上限を設ける」点についてはメディア等でもよく取り上げられているので詳しくは述べないが、これに対しても厚労省は通達の中で「一定の疾患及び症状を有しリハビリを継続することで状態の改善が期待できる場合には日数の上限を適用しない」と苦しい言い訳をしている。しかしこれについての周知は不十分で、医療機関や医師ごとにその基準が異なるため、患者サイドには混乱や不満があることは述べておこう。
いずれにしろ、疾患と患者は千差万別、無数の組み合わせであり、疾患ごとに日数制限を一律に設定する方が不自然であることは我々医療人から見ると自明の理である。この日数制限問題は、リハビリの問題というよりは「ケースごとに判断し必要な医療を提供する」という医療人の専門性に基づく裁量をないがしろにするものであり、これを放置することでさらなる裁量の侵害、皆保険制度の空洞化、社会保障の崩壊につながる問題だと捉えたい。
「維持期リハビリを介護保険で」
という
厚労省の机上の空論
次に「維持期のリハビリを介護保険で行うようにする」という点だが、これには土台無理があると申し上げたい。まず、介護保険で行われているリハビリは、通所リハビリと訪問リハビリ、そして通所介護でもリハビリを行っているところもある。しかし、そのリハビリの内容はどうなっているか? 訪問リハビリはリハビリスタッフが不足し、サービスを提供したくてもできない状況にあることは先に述べた。残る通所サービスでのリハビリは、通所施設の現状の運用についての理解が必要である。
通所サービスのほとんどは、午前9時から10時くらいに送迎車で患者宅に迎えにあがり、施設に入ってからは、バイタルチェック、入浴、昼食、レクリエーションなどさまざまな活動を行い、午後4時頃に患者宅へ送り届けるというパターンであろう。もちろんその活動の中にはリハビリも含まれており、専門職員が利用者ごと個別に必要なプログラムを検討し、リハビリも個別に行い、一定期間ごとにプログラムの見直しをすることになっている。
しかし、通所サービスで行っているのは、いわゆる狭義のリハビリだけではなく、入浴や食事、利用者同士のふれあいなど、集団であるからこそ可能な生活全般を視野に入れたリハビリである。利用者も身体だけでなく認知的に問題を抱えている人が多く、リハビリは身体的なものから、より精神的な活動を視野に入れたレクリエーション的なものが必要になっている。いままでもこのような全般的なリハビリを行ってきた通所施設に、退院・退所間もない、ただ疾患により身体的に不自由があるだけの患者がマッチするだろうか?リハビリの時間だけの利用でよいとは言うが、時間数が減少すれば収入が減るにも関わらず、定員だけが満たされていくため運営上も不利になる。ただでさえ経営が困難であるのにわざわざ収入が減るような運営を行えるだろうか?
また、きめ細かいリハビリプログラム作成には一応加算がされているが、これは介護報酬改定時にまず、基本的なサービス費は減額されていて、それを補うかのように、まるでトッピングのように、「きめ細かいリハビリを行うと減額分を取り戻せますよ」というイヤらしい点数誘導である。従って現場ではリハビリスタッフに十分な報酬を出せているわけでもなく、厚労省の言う重点的な加算にはペテンがあるわけだ。
以上のような状況で、介護保険でのリハビリと医療保険でのリハビリは名こそ同じリハビリだが内容は異なる部分が多い。制限日数が来たから無理やり医療から介護へというのはあまりにも現場を知らない役人の考えそうな机上の空論である。介護で維持期のリハビリを行うと言うならば、それは維持期のリハビリに合うシステム、サービスを整備してからの話だろう。
【京都保険医新聞_第2573号_2007年2月12日2面】
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